.
第4
章︵
続︶
﹁
いよっ
と﹂
﹁
はいですぅ
﹂
.
亜久亜と、
茶茶は、
し
ゃ
ん、
と両手を開き、
すとん
、
と地面に降り立
っ
た。
.
しゅ
っ
、
.
しゅ
っ
、
と二人が姿を見せたのは
、
地上から一メ
︱
トルほどの空中
。
.
二人は問題なく、
足から
、
すとん、
と着地した
。
.
足には、
ちゃ
んと靴をはいている
。
.
続いて、
.
しゅ
っ
、
.
しゅ
っ
、
と空中に姿を見せたのは
、
パリポとナミクル
。
.
二人のぷりんてぃ
んは
、
姿を見せると、
﹁
トトプト!
﹂
.
すぐにそのまま、
さぁ
ぁ
︱
っ
とまっ
すぐに飛んでいく
。
.
直接、
姿が見えなくても
、
ぷりんてぃ
ん同士はお互いに相手がど
こにいるのか分かるら
しい
。
.
十メ︱
トルほど先、
正面の小高い丘の向こ
うへと
、
ふっ
、
ふっ
、
と飛んでい
っ
た。
.
そして、
.
しゅ
っ
・
・
・
.
最後に姿を見せたのは
、
美也子。
.
彼女は地面から一メ︱
トルほどの空中に姿を現すと
、
そのまま・
・
・
.
ドスン!
.
・
・
・
お尻から地面に落
っ
こちた。
﹁
いっ
たぁ
︱
︱
、
う︱
︱
︱
﹂
.
彼女はお尻を右手でさすり
、
左手にもっ
たポテチの袋を目の前で
、
ひらひらと振
っ
た。
.
ひらひら、
ひらひら・
・
・
.
でも、
中身はからっ
ぽ
。
.
一つのポテチも残っ
ていない
。
.
.
.
﹁
うぅ
︱
︱
、
これ、
ふつうのお店じ
ゃ
売っ
てないのに
ぃ
ぃ
ぃ
﹂
.
お尻を繰り返しさする
。
.
ずきずき、
ずきずき、
とする
。
.
う︱
︱
︱
︱
︱
︱
。
﹁
みゃ
︱
こ!
﹂
﹁
美也子お姉さまぁ
!
﹂
.
亜久亜と茶茶が何メ︱
トルか向こうから駆け寄
っ
てくる。
.
美也子は、
う︱
、
と顔をあげた
。
﹁
みゃ
︱
こ﹂
.
亜久亜は言っ
た。
.
美也子の手前で立ち止まり
、
辺りを、
きょ
ろき
ょ
ろと見回した。
﹁
ここ、
どこだ?
.
ずいぶん山の中みたいだ
けど
﹂
.
たしかに・
・
・
.
たしかに、
かなり山の中のようだ
っ
た。
.
正面にも、
右にも、
左にも
、
ちらっ
と振り返ると後ろにも
、
はるか遠くの方になだらか
な山並みが連な
っ
ているのが見える
。
.
木々
に覆われた青々
とした山
。
.
鳥の群れがそのあいだを
、
ぱぁ
ぁ
ぁ
ぁ
︱
っ
と飛んでいくのが見え
る
。
.
いつのまにか夕方に近くな
っ
ていたのか、
右手の山のきわには
、
太陽が沈みかけている
。
.
左手には大きな針葉樹がま
っ
すぐに立っ
ているが
、
それをのぞけば辺りには特に目に付
くものはない
。
.
そして正面、
十メ︱
トルほど先には
、
なだらかな小高い丘
。
.
パリポとナミクルは丘の向こうへと行
っ
てしま
っ
たのか、
姿が見えない
。
.
トトプトの姿もない。
﹁
なっ
?
.
なんにもないだろ
?
.
こんなとこでい
っ
たい・
・
・
?
﹂
.
亜久亜は、
きょ
ろきょ
ろ、
きょ
ろきょ
ろ、
と辺りを見回している
。
﹁
う︱
︱
︱
︱
﹂
.
美也子は地面にお尻をついたまま
、
両ひざを
、
ぐいっ
と立てた。
.
両手でその両ひざを、
き
ゅ
っ
とかかえ、
そのままそこに
、
ぐすっ
と顔を伏せた
。
﹁
う︱
︱
︱
︱
、
もぉ
、
や
﹂
﹁
えっ
?
﹂
.
亜久亜は振り返っ
た。
.
茶茶も振り返る。
﹁
みゃ
、
みゃ
︱
こ?
﹂
﹁
みゃ
︱
こじゃ
ない!
﹂
.
美也子は声を立てた。
これまで二人が聞いた
こともないような
、
大きな大きな声
。
.
顔はぐすっ
と伏せたまま
。
.
亜久亜も、
茶茶も、
驚きの表情で美也子を
ぼうぜんと見つめた
。
﹁
みゃ
︱
こじゃ
・
・
・
み
ゃ
︱
こじゃ
ない。
私は美也子よ
。
.
もぉ
︱
、
もぉ
、
いや。
.
私、
中学生になっ
たら
、
ふつうの女の子らしい生活にあこがれて
たのに
。
.
ふつうの女学生ライフに
。
.
お茶飲んだり、
アッ
プルパイ食べたり
、
おし
ゃ
べりしたり。
.
それなのに・
・
・
もぉ
、
なにが、
まじかるエンジ
ェ
ルよ!
.
ひざは痛いし、
お尻は痛いし
、
ポテチはぜんぶなくな
っ
ちゃ
うし﹂
﹁
えっ
?
.
えっ
?
.
えっ
?
﹂
.
亜久亜はおろおろ、
おろおろ
。
.
なにがなにやら、
なにがなにやら
、
さっ
ぱり分からず
、
茶茶とちら
っ
と顔を見合わせ、
おろおろ
。
.
どうにも、
こういうのは苦手だ
っ
た。
﹁
あ、
はは﹂
.
引きつっ
た笑いを浮かべ
、
あらためて美也子へと目を向けた
。
﹁
あ、
あの・
・
・
なんの話
?
﹂
﹁
なんの話じゃ
ないわよ
﹂
.
美也子はばっ
と顔をあげた
。
.
きっ
と亜久亜を見つめ
、
﹁
だいたい・
・
・
だいたい
、
なんで私がリ︱
ダ
︱
なのよ!
.
亜久亜さんの方が年上なんだから
、
亜久亜さんがリ
︱
ダ︱
になればいいじ
ゃ
ない。
.
いつも、
いつも、
作戦会議とかい
っ
て、
私の部屋にあつま
っ
て・
・
・
お茶飲んで、
おしゃ
べりしてるだけじゃ
ない
﹂
﹁
あ、
あのさ﹂
.
亜久亜は頭の後ろに手をあて
、
ぽりぽりと頭をかいた
。
﹁
あ、
あのさ、
俺、
そういうの
・
・
・
リ︱
ダ︱
とかっ
ていうの、
あんまり性に合わないし
さ
、
.
それに、
ほら、
なんて
っ
たっ
て、
みゃ
︱
こが一番最初に
、
ぷりんて
ぃ
んの力を分け与えられて
、
まじかるエンジ
ェ
ルになっ
たんだし。
.
だからさ、
俺たちの先輩だし
。
・
・
・
それにさ
、
さ、
ほら、
俺も、
茶茶もいつも神戸と札
幌から東京の美也子の
家まで来てるんだしさ
、
な
、
な﹂
﹁
そんなの・
・
・
﹂
.
美也子は両ひざをかかえたまま
、
目をふせた
。
﹁
そんなの・
・
・
パリポと
、
ナミクルの力で、
来るのに一分もかから
ないじ
ゃ
ない﹂
﹁
ま、
ま、
ま、
それはそうなんだけどさ
、
はは
﹂
.
亜久亜は、
ぽりぽりと頭をかき
、
﹁
でもさ、
なんていうか
、
その・
・
・
俺、
頭わるいからうまく言え
ないんだけど
、
俺も、
茶茶も
、
みゃ
︱
こがいてくれないと
、
どうもダメなんだよな
。
.
美也子に引っ
ぱっ
てもらわないと
、
ど︱
もさ
。
まだ出会っ
て、
二、
三週間だけど
、
ど︱
も、
し
っ
くりいかないんだよな
﹂
﹁
そ、
そうですよぉ
﹂
.
茶茶も笑っ
た。
﹁
私たち、
美也子お姉さまがいてくれないと
・
・
・
私たちだけじゃ
ダメなんです
ぅ
﹂
﹁
う︱
︱
︱
﹂
﹁
な、
な、
だから機嫌なおせ
っ
て。
俺たち悪いとこがあるなら
、
なおすからさ
。
な、
な﹂
﹁
そうですぅ
、
機嫌なおしてください
ぃ
﹂
﹁
う︱
︱
︱
﹂
.
美也子はひざをかかえる両腕に
、
きゅ
っ
と力を込めた
。
﹁
あのさ、
私さ﹂
﹁
う、
うん﹂
﹁
な、
なんですか?
﹂
﹁
私さ﹂
.
美也子はぼそりとつぶやいた
。
﹁
私、
ほんとはさ、
目立つの
っ
て嫌いなのね。
.
どっ
ちかっ
ていうと、
静かにしてるほうが好
きなのね
。
.
トトプトと出会っ
て、
こんなことにな
っ
て・
・
・
.
毎日、
変身して、
まじかるエンジ
ェ
ルになっ
て、
日本中あっ
ちこっ
ち飛び回っ
て・
・
・
.
心のよごれたエンジェ
ルさんを見つけては、
きらめきでつつんで
・
・
・
.
なんだか日本一、
世界一
、
目立っ
ちゃ
っ
てるけど
、
ほんとは派手なの
っ
て嫌いなの。
.
それなのにね、
なんだかテレビのニ
ュ
︱
スには毎日
、
出ちゃ
うし、
.
友達のゆ︱
こが学校に持
っ
てきた雑誌には何ペ
︱
ジも変身した私の写真がカラ
︱
でたくさん載
っ
てるし・
・
・
金髪の
・
・
・
.
それに、
インタ︱
ネッ
トにはファ
ンサイトが二万も
、
三万もできてるし
・
・
・
﹂
﹁
そ、
そうだよな﹂
.
亜久亜はおろおろとしながら
、
﹁
そ、
そういうの
っ
て、
迷惑だよな
。
俺の写真もよく載っ
てるけど、
め、
迷惑だよな
﹂
﹁
そ、
そうですぅ
﹂
.
茶茶もおろおろ。
小脇にテデ
ィ
ベアのぬいぐるみを抱えながら
、
おろおろ
、
おろおろ。
﹁
そ、
そういうのっ
て、
やめてくれ
っ
て感じです
ぅ
﹂
﹁
う︱
︱
﹂
﹁
で、
でもさ﹂
.
亜久亜は笑っ
た。
ちょ
っ
と・
・
・
ちょ
っ
とだけ引きつ
っ
た笑い。
﹁
でもさ・
・
・
でも、
俺たちには美也子が必
要なんだよ
。
な、
だから
、
頼むよ﹂
﹁
そうですぅ
﹂
.
茶茶も笑っ
た。
﹁
亜久亜お姉さまの言うと
おりです
ぅ
。
美也子お姉さまがいてくれない
と
、
茶茶も困るですぅ
﹂
.
美也子は自分の靴の先
、
その白いつま先をじ
っ
と見つめた。
.
目を伏せ、
きゅ
っ
と腕に力を込めた
。
.
ばかみたい、
私・
・
・
﹁
な、
みゃ
︱
こ﹂
﹁
美也子お姉さまぁ
﹂
.
くっ
と美也子はあごを引いた
。
.
すっ
、
.
すくっ
とその場に立ち上が
っ
た。
.
ふっ
と息をつく。
.
指先を目の下にあて、
ち
ょ
っ
とだけにじんでいた涙を
、
きゅ
っ
とぬぐ
っ
た。
.
ふ︱
と息をつく。
﹁
私は美也子よ﹂
.
美也子は言っ
た。
.
ぱたぱたとスカ︱
トのお尻についた土を手
ではたく
。
﹁
でも・
・
・
でも、
みゃ
︱
こでもなんでもいいわ
﹂
.
ふっ
と顔をあげ、
亜久亜と茶茶を順番に見
つめた
。
.
静かに笑い、
﹁
今回だけ、
いい、
今回だけよ
。
ほんとなんだから
。
今回のミッ
ショ
ンが終っ
たら、
私、
もう
、
まじかるエンジェ
ルなんて、
ぜっ
たいやめるんだから
﹂
.
亜久亜は笑っ
た。
.
にっ
と白い歯を見せる
。
﹁
いいさ、
それで﹂
.
茶茶も笑っ
た。
﹁
美也子お姉さま、
がんばるです
ぅ
﹂
.
美也子は目を伏せた。
くす
っ
と笑っ
た。
.
まっ
たく・
・
・
調子いいんだから
・
・
・
.
すっ
と顔をあげる。
﹁
うん﹂
.
・
・
・
・
・
・
.
.
・
・
・
.
・
・
・
﹁
美也子ちゃ
ん!
﹂
﹁
亜久亜さん!
﹂
﹁
茶茶ちゃ
ん!
﹂
.
と、
ふいに、
よく聞きなれた声が響く
。
.
トトプトの、
パリポの
、
ナミクルの声。
.
三人は、
ばっ
と正面の丘の上へと目を向け
た
。
.
夕陽の光をあびて、
丘の上の空中に
、
トトプトが
、
パリポが、
ナミクルが
、
ふわふわと浮かんでいる
。
.
ピンク色の、
水色の、
黄色の
、
ぷりんてぃ
ん。
.
十メ︱
トル以上の距離があ
っ
たが、
遠く離れていたが
、
ぷりんてぃ
んたちの表情がひどく緊迫しているのが分
かる
。
.
見たこともないような表情
。
.
トトプトの声が響く。
﹁
みんな、
いそいで!
.
時間がない、
時間がないんだ
。
いそがないと
、
子供たちが!
﹂
.
美也子は、
亜久亜は、
茶茶は
、
互いに顔を見合わせた
。
.
こくん、
とうなずきあう
。
.
ざっ
、
ばっ
、
と正面に向き直り
、
三人は駆け出した
。