.
エピロ︱
グ.
チャ
ポン、
と響く水の音
。
.
︱
︱
正確には、
あたたかなお湯の音
。
﹁
ふぅ
ぅ
︱
︱
︱
﹂
と美也子は
、
ぶくぶくぶく、
と鼻のすぐ下までお湯
の中につか
っ
た。
.
顔をもたげ、
口を上へと出し
、
﹁
ふひゅ
︱
﹂
.
ばしゃ
ん、
と両手で湯ぶねからお湯をすく
い
、
顔にかけた。
.
チャ
ポン、
.
・
・
・
と響くお湯の音
。
﹁
ふうぅ
︱
︱
︱
、
やっ
ぱりお風呂が一番よね
︱
﹂
.
自宅の浴室、
湯ぶねの中
。
.
美也子は山の中から自宅へともどり
、
家族と夕食をすませると
、
さ
っ
そく誰よりも先にお風呂へとはい
っ
た。
.
あれだけ駆け回れば、
それなりに疲れる
。
.
疲れをとるには、
やっ
ぱりお風呂が一番。
.
頭にタオルを巻いて、
浴槽の中に
、
じょ
ぼん!
﹁
ふぅ
ぅ
︱
︱
︱
﹂
とため息の一つも出てしま
う
。
.
ふわっ
と湯気が立ちこめる
。
﹁
ん︱
、
最高﹂
.
美也子は一人、
くすっ
と笑っ
た。
﹁
ん︱
︱
︱
、
極楽、
極楽﹂
.
ひゅ
っ
と左腕をのばし
、
右手で、
ぱしゃ
ぱし
ゃ
とお湯をかける。
﹁
ん︱
︱
︱
﹂
.
じっ
と目をこらす。
﹁
やだな︱
、
二の腕ふとくな
っ
てないかな︱
﹂
.
くすくす、
くすくす、
と笑
っ
た。
﹁
ま、
いっ
か﹂
.
浴槽のふちに頭をのせ
、
湯ぶねの中でふわっ
と体を伸ばした。
﹁
ん︱
、
極楽、
極楽﹂
﹁
美也ちゃ
ん﹂
と脱衣所の方から声が聞こえ
た
。
﹁
んっ
?
﹂
と顔をちょ
こんと横に向けると
、
すりガラスの向こうに
母親の影が見える
。
﹁
なに、
ママ?
﹂
﹁
着替えとバスタオル、
ここにおいとくわね
。
あなたお風呂
、
ほんと長いんだから
、
ほどほどになさいね
。
それと奈奈がお姉ち
ゃ
んといっ
しょ
にお風呂はいりたい
っ
て言っ
てるけど、
どうする
?
﹂
﹁
ん︱
︱
﹂
.
美也子はちょ
っ
と考え
、
﹁
今日はだめ﹂
﹁
あら、
つめたいお姉さんね
﹂
﹁
ん︱
︱
︱
、
だっ
て﹂
.
美也子は笑っ
た。
﹁
今日はね、
ちょ
っ
と疲れたから
﹂
﹁
なによ﹂
.
母親がくすっ
と笑っ
ているのが分か
っ
た。
﹁
あなた、
家で留守番してただけじ
ゃ
ない﹂
﹁
んん︱
︱
﹂
.
美也子は顔をもとへと戻し
、
天井を見上げた
。
﹁
まあね、
この年になると
、
いろいろとあるのよ
﹂
﹁
いろいろっ
てなにが
?
﹂
﹁
ん︱
︱
︱
︱
、
まあ、
いろいろと
、
いろいろとね
。
世界に愛と幸せの宝石をふりまいたり
、
とか
﹂
.
母親は、
くすくす、
くすくす
、
と笑っ
ている
。
﹁
なに言っ
てるのよ、
テレビの見すぎよ
。
ま、
いいわ
。
奈奈にはそう言
っ
とく。
とにかくね、
着替えとバスタオル置
いといたから
、
ほどほどに出なさいね
﹂
﹁
は︱
い﹂
.
美也子は答えた。
﹁
ありがとう、
ママ﹂
﹁
ええ﹂
.
くすくす、
くすくす、
と笑いながら
、
母親は脱衣所から出て行
っ
た。
.
廊下へと出る扉が閉まる
、
ぱたん、
という音が聞こえた
。
.
ふたたび、
浴室は、
し
︱
ん、
と静まり返る。
.
美也子は、
ぱしゃ
ん、
とお湯を顔にかけた
。
.
チャ
ポン、
.
・
・
・
と湯ぶねが音をたてる
。
﹁
ふぅ
︱
︱
﹂
.
美也子は吐息をもらす
。
.
ふと思い出し、
顔をもたげた
。
浴槽の左のふちに置いておいたキ
ャ
ンディ
︱
へと目を向けた
。
.
あの小学校の男の子がくれたキ
ャ
ンディ
︱
・
・
・
.
手を伸ばし、
そっ
とキ
ャ
ンディ
︱
を手に取っ
た。
.
少し考え、
包装をきゅ
るっ
と解き、
中の青い透き通
っ
た色のキャ
ンデ
ィ
︱
を口にいれた。
.
舌の上でころがすと、
すぐにふわ
っ
とした甘さが口の中にひろがる
。
.
ふたたび浴槽のふちに頭をのせ
、
そっ
と目を閉じた
。
.
チャ
ポン、
と湯ぶねが音をたてる
。
.
口の中にひろがる心地よい甘さ
。
.
ん︱
、
おいしい・
・
・
.
美也子は思っ
た。
﹃
お姉ちゃ
︱
ん、
ありがとう
。
また来てね︱
﹄
.
男の子の言葉が頭によみがえる
。
.
わあぁ
ぁ
ぁ
、
.
わあぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
っ
、
とした子供たちの歓声
。
﹃
やっ
たぁ
!
﹄
﹃
すごぉ
い﹄
﹃
かっ
こいい︱
﹄
﹃
お姉ちゃ
んたちぃ
!
﹄
﹃
ありがとう!
﹄
﹃
まじかるエンジェ
ル﹄
﹃
まじかるエンジェ
ル﹄
﹃
まじかるエンジェ
ルぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
﹄
.
まじかるエンジェ
ル・
・
・
か。
.
美也子は、
ふ︱
、
と息をついた
。
目はじっ
と閉じたまま
。
.
まじかるエンジェ
ル、
ね
。
.
まあ、
ね、
ほんとはね
、
私、
静かにしてる方が好きなんだけどね
。
.
静かに、
﹃
ふつう﹄
の女子中学生らしい生
活をしている方がいい
んだけど
・
・
・
.
ふつうの女子中学生らしい生活
・
・
・
.
ふつうの女学生ライフ
・
・
・
.
友達と恋や占いの話をしたり
、
学校の帰りにケ
︱
キ屋さんによっ
て
、
チ︱
ズケ︱
キや、
オレンジタルトを食べ
たり
、
レモンティ
︱
飲んだり
・
・
・
.
休みの日には、
はやりのアクセサリ
︱
を探して
、
友達とお出かけ。
.
テストの結果にやきもきして
、
ラブレタ︱
書いたり
・
・
・
.
ふ︱
、
と息をついた。
.
まじかるエンジェ
ル・
・
・
か。
﹃
お姉ちゃ
︱
ん、
ありがとう
。
また来てね︱
﹄
.
くすっ
と笑っ
た。
.
まっ
、
いっ
か・
・
・
.
くすくす、
くすくす、
と笑
っ
た。
.
人々
にきらめきをふりまく
、
.
心をきれいにする、
.
愛と、
.
幸せの、
.
・
・
・
まじかるエンジ
ェ
ルズ。
.
一番の人気は、
.
・
・
・
リ︱
ダ︱
のミフテ
ィ
。
.
ま・
あ・
ね・
・
・
.
ま、
いっ
か。
.
ふっ
とかすかな笑みが浮かんだ
。
.
胸をゆっ
くりと上下させ
、
ふぅ
︱
、
と息をついた
。
湯ぶねの中で、
す
っ
と手をのばし、
足をのばした
。
.
ふわっ
とお湯の中に体が浮かぶ
。
﹁
うん・
・
・
﹂
.
まるで・
・
・
.
まるで、
あたたかなお湯の中に体がとけこ
んでいくよう
・
・
・
.
.
ぷり︱
ん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷりん、
ぷりん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
・
・
・
・
・
・
﹁
ん︱
、
極楽、
極楽﹂
.
美也子はふわふわと湯ぶねに浮かんでいる
。
.
ふ︱
、
と息をついた。
.
.
・
・
・
・
・
・
.
.
ぷりん、
ぷりん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷりぷり、
.
.
ぷりぷり、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷり︱
ん、
・
・
・
﹁
えっ
?
﹂
.
美也子は、
はっ
として目を開いた
。
﹁
げっ
!
﹂
.
顔をもたげる。
﹁
えっ
、
ちょ
っ
と、
まさか
・
・
・
﹂
.
.
ぷり︱
ん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷりん、
ぷりん、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷりぷり、
.
.
ぷりぷり、
.
.
ぷりんてぃ
ん.
.
ぷり︱
ん、
.
.
ぷりんてぃ
ん﹁
えっ
、
ちょ
っ
と﹂
.
美也子は、
がばっ
と上体を起こした
。
ざばっ
、
ざばばっ
、
とお湯が浴槽からあふれ出る
。
﹁
げっ
、
ちょ
っ
と、
まさか
、
トトプト﹂
.
.
あっ
、
.
.
美也子ちゃ
ん、
.
.
聞こえる?
.
.
.
それ、
は直接、
美也子の頭の中に響いてく
る
。
場所の制約を越えて
、
距離の制約を越えて
、
心と心を
、
言葉と言葉を通い合わせることが
できる
、
ぷりんてぃ
んの特殊能力
。
.
もうよく知っ
ている能力
。
.
シンパシ︱
︵
共鳴能力
︶
。
﹁
ちょ
、
ちょ
、
ちょ
、
ち
ょ
、
ちょ
っ
と・
・
・
ち
ょ
っ
と、
待ちなさいよ
、
トトプト!
.
私、
いま
・
・
・
﹂
.
.
美也子ちゃ
ん、
.
.
大変なんだ!
.
トトプトの声が響く。
.
トトプトは、
美也子の言うことなど
、
ちっ
とも
、
ぜんぜん、
まっ
たく聞いていない
。
.
ただ、
ただ、
状況を伝えるのに
、
必死。
.
一生懸命。
.
そのほかのことなんて
、
.
・
・
・
ぜんぜん、
まっ
たく、
頭にはいっ
ていない
。
.
言葉が続いた。
.
.
た、
.
.
たいへんなんだ、
.
.
いまね、
.
.
杖をついた.
.
おばあちゃ
んが.
.
柄のわるい.
.
男の人たちに.
.
からまれてて・
・
・
﹁
ちょ
、
ちょ
、
ちょ
、
ち
ょ
っ
と!
﹂
.
.
急いで、
.
.
時間がないんだ!
﹁
トトプト!
﹂
.
.
強制転移準備、
.
.
五・
・
・
.
.
・
・
・
四・
・
・
﹁
ぎゃ
ああああああああああああ
・
・
・
﹂
.
美也子は、
ばっ
と浴槽から飛び出した
。
﹁
きゃ
あ、
うそぉ
﹂
.
.
・
・
・
三.
.
・
・
・
二・
・
・
.
バッ
、
ガラッ
とすりガラスの扉を開け
、
脱衣所へと飛び出した
。
.
あたふたと棚からバスタオルを取り
、
着替えの下着と洋服を腕に
かかえた
。
.
.
・
・
・
一・
・
・
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
と、
まっ
て・
・
・
﹂
.
美也子は、
あわててバスタオルを体にまい
た
。
.
でも、
できたのはそこまで
。
.
.
・
・
・
ゼロ・
・
・
.
.
強制転移!
﹁
きゃ
ああああああぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
っ
っ
っ
っ
っ
﹂
.
ふっ
とその場から美也子の姿が消える
。
.
.
☆.
.
☆.
.
☆.
光ときらめきが行き交う
、
まじかるロ︱
ド。
.
その中をバスタオル一枚姿の美也子が
、
しゃ
あ︱
︱
︱
︱
︱
︱
っ
と通り抜けていく
。
.
片腕に着替えの下着と洋服をかかえながら
。
.
反対の手でバスタオルの端を押さえながら
。
.
タオルの端が、
ばさばさ
、
ばさばさ、
と揺れている
。
﹁
きゃ
あ、
も︱
、
トトプトのばか
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
!
.
いやあぁ
.
.
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
﹂
.
美也子の声が、
まじかるロ
︱
ドに響き渡る。
.
しゃ
あ︱
︱
︱
︱
︱
︱
︱
︱
っ
とさらに、
さらに
、
勢いが増していく。
.
も︱
、
ほとんど泣きそう
。
﹁
あ︱
ん、
もぉ
、
なにが
、
まじかるエンジェ
ルよ
!
.
あ︱
ん、
いやあぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
、
あ︱
ん、
もうぜ
っ
たい、
ぜっ
たい、
やめるんだから
ぁ
。
.
ほんとなんだから。
.
あ︱
ん、
バスタオル、
取れち
ゃ
う、
きゃ
あ、
いや
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
!
﹂
.
ロ︱
ドの出口が近づき
、
彼女の体は、
ぱあぁ
ぁ
ぁ
ぁ
っ
としたまっ
白い光につつまれる
。
﹁
あ︱
ん、
トトプトのばか
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
!
.
あ︱
ん、
ばかぁ
、
取れち
ゃ
う、
取れちゃ
う!
.
きゃ
あ、
もぉ
!
.
私の、
﹃
ふつう﹄
の女学生ライフ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
ッ
ッ
ッ
ッ
ッ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
っ
﹂
愛と幸せの妖精
.
.
.
ぷりんてぃ
ん.
まじかる☆.
.
.
エンジェ
ルズ.
.
.
.
おしまい.
・
・
・
または・
・
・
.
・
・
・
または・
・
・
.
.
ふふ、
.
.
ふふふ・
・
・
.
.
いまは三人。
.
.
・
・
・
.
.
残りが三人.
.
・
・
・
か。
.
.
ふふ・
・
・
.
.
いいだろう。
.
.
まっ
てやる。
.
.
六人の少女、
.
.
全員が.
.
そろうまで、
.
.
まっ
てやろう。
.
.
じつに・
・
・
.
.
じつに.
.
おもしろい.
.
・
・
・
ふっ
、
.
.
うふふ、
.
.
ふふふふふふ.
.
・
・
・
.
.
・
・
・
.
.
六人の少女、
.
.
全員が.
.
そろうまで、
.
.
まっ
てやろう。
.
.
六人の少女、
.
.
全員が.
.
そろうまで、
.
.
まっ
てやろう。
.
.
六人の少女、
.
.
全員が.
.
そろうまで、
.
.
まっ
てやろう。
.
.
六人の少女、
.
.
全員が.
.
そろうまで、
.
.
まっ
てやろう。
.
または・
・
・
.
.
・
・
・
つづく.
☆