.
第1章︵
続・
続︶
.
よくあのとき悲鳴をあげなか
っ
たわよね︱
、
私
。
.
美也子は目の前をくるるん
、
くるり、
ぴょ
ん
、
さぁ
ぁ
ぁ
ぁ
ぁ
︱
っ
と右に行
っ
たり、
左に行
っ
たり、
下に行っ
たり
、
上に行っ
たり、
くるくる
、
くるくると飛び回
っ
ているトトプトを眺めながら思
っ
た。
.
本当に楽しそう。
.
いつのまにか、
トトプトの周りには
、
黄色、
白
、
紫、
大揚羽︵
おおあげは
︶
、
小揚羽︵
こあげは
︶
、
たくさんの蝶
々
が集まり、
いっ
しょ
にふわふわと飛び交っ
ている。
.
さすが、
愛の妖精よね
ぇ
。
.
美也子は小首をかしげた
。
愛と幸せの妖精・
・
・
あんまりそうは見えないけど
。
.
くすっ
と笑い、
両手でカバンを持
っ
たまま、
ち
ょ
こん、
と肩をすくめた
。
.
トトプトは美也子の目の前の空中で
、
ふわっ
と動きを止めた。
.
彼女の方へと向き直り
、
﹁
あれ?
.
なに?
.
美也子ち
ゃ
ん?
﹂
﹁
ん︱
、
なんかねぇ
﹂
.
美也子は笑っ
た。
﹁
なんか、
ちょ
っ
とだまされち
ゃ
っ
たかな︱
っ
て﹂
﹁
えっ
、
えっ
﹂
.
トトプトは、
ちょ
っ
と
、
おろおろ。
﹁
えっ
、
誰に
?
﹂
﹁
ん︱
、
トトプトに﹂
﹁
えっ
、
えっ
?
﹂
.
トトプトはますます、
おろおろ
、
おろおろ。
﹁
えっ
、
な、
なんで?
﹂
﹁
え︱
、
だっ
て﹂
.
美也子は、
おろおろ、
おろおろとするトトプ
トがなんだかおかしく
て
、
かわいくて、
ちょ
っ
と意地悪をしてみたくな
っ
た。
﹁
だっ
て︱
、
あのとき、
愛をお届けにきました
、
なんて
、
突然、
言うしぃ
﹂
﹁
えっ
、
で、
で、
で、
でも
﹂
.
トトプトは体を起こした
。
ぷにぷにお手々
を
、
あわてて、
ぱたぱたと上下に振りながら
、
﹁
で、
で、
で、
でも、
でも
、
あのとき、
美也子ち
ゃ
ん、
愛が欲しいっ
て﹂
﹁
そりゃ
あ、
言っ
たけどね
﹂
.
美也子はにっ
と笑っ
た
。
﹁
でもな︱
、
そんなに本気で言
っ
たわけでも
・
・
・
﹂
﹁
そ、
そ、
そ、
そんなことないよ
﹂
.
トトプトはさらにお手
々
を上下に、
ぱぱぱ、
ぱたぱた
。
﹁
ぼ、
ぼくね、
ちょ
うど美也子ち
ゃ
んのおうちの上を通り過ぎると
きにね
、
ちょ
うどその声を聞いて
、
あ、
この人だ
、
っ
て思っ
たの。
.
こ、
言葉だけじゃ
ないよ
、
美也子ちゃ
んの中にあるなにかを感じ
て
・
・
・
美也子ちゃ
んの心の中に眠
っ
ている、
きらきら
、
きらきらとしたなにか
・
・
・
.
あのね、
愛と幸せの宝石を感じて
・
・
・
それが見えたの
・
・
・
それでね
、
あ、
探してたのは
、
この人だっ
て、
思
っ
たんだよ﹂
.
美也子はくすっ
と笑っ
た。
﹁
うそばっ
かり﹂
﹁
ほ、
ほ、
ほ、
ほんとだよ
﹂
﹁
ほんと?
﹂
﹁
そうだよ、
ほんとだよ
﹂
﹁
ふ︱
ん﹂
.
美也子は首を左にかたむけた
。
.
でも、
まあ、
悪い気はしない
。
ほんとうにあのとき
、
あの夜の驚きとい
っ
たら・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
﹁
あの、
ぼ、
ぼく、
愛の妖精です
。
.
まじかるランドから来ました
。
.
愛と幸せの妖精ぷりんて
ぃ
ん、
です。
名前は
、
トトプトといいます
﹂
.
その﹃
なにか﹄
︱
︱
自称
、
愛の妖精ぷりんて
ぃ
ん、
トトプトは勉強机の上
、
黄色い便箋の上で
、
ぺこり、
と頭をさげた
。
.
ちょ
こんと小さな両手
?
を体の前で合わせて
、
とっ
ても丁寧なごあいさつ
。
.
でも・
・
・
でも、
美也子は
、
ただ、
ただ、
ぼうぜんとするばかり
で
、
しばらくのあいだ・
・
・
.
えっ
?
.
ぽかんと口を開けたまま
、
その小さな、
つやつや
、
ぷよぷよの妖精をぼうぜんと見つめ
ていた
。
.
妖精は顔が、
つるっ
、
ぷよん
、
としていて、
下の辺りが
、
ふんわり、
むに
ゅ
、
ぽこん、
と出っ
ぱっ
て、
丸くなっ
ている
。
.
そこについた、
ちょ
こんとしたお口
。
.
小さなお目々
。
.
体も同じく、
つるっ
、
ぷよん
、
としていて、
ち
ょ
うど背中の辺りが、
や
っ
ぱり大きくこぶのように
、
ぽよよん、
と盛り上が
っ
ていた。
.
そして、
短く、
小さな
、
先の丸まっ
た手足。
ぷに
ゅ
ぷにゅ
の手足。
.
なんだか、
ゼリ︱
でつく
っ
たお人形みたいだ
っ
た。
.
指でさわると、
ぽにょ
ぽにょ
、
とっ
ても気持ちよさそう
。
.
ぷにぷにの、
小さな、
明るいピンクのゼリ
︱
のような
、
お菓子のような
、
妖精︱
︱
.
しばらくして、
美也子はは
っ
として我に返ると
、
遅ればせながら、
思わず
、
きゃ
ぁ
っ
、
という悲鳴がのど元まで
出かか
っ
た。
.
見たこともない妖精が机の上で当たり前の
ようにし
ゃ
べっ
ている・
・
・
.
でも・
・
・
.
でも、
おずおず、
一生懸命
、
頭をさげて、
ごあいさつをしている
ゼリ
︱
のような小さな妖精の
﹃
後頭部﹄
を見ていると
、
なんだか声を上げたら悪いような
気がした
。
.
不思議と気持ちが徐々
に落ち着いてくるのを感じた
。
.
もしかすると、
もうこのときには
、
不思議な
、
ぷりんてぃ
ん、
の魔法にかか
っ
ていたのかも知れない
。
﹁
あ、
あの・
・
・
﹂
とピンク色の妖精は顔を
あげ
、
不安そうに言っ
た
。
.
ぷにぷに、
つやつや、
のお顔
。
.
うん・
・
・
.
美也子はつぶやいた。
.
す︱
っ
と気持ちが落ち着いてくると
、
なんだか目の前の出来事
、
すべてを受け入れるこ
とができるような気が
した
。
.
妖精・
・
・
.
愛の妖精・
・
・
.
んっ
、
と息を飲み込み
、
椅子に座りなおした
。
.
とにかく話を聞いてみよう
。
.
ちょ
こん、
と顔を上げた妖精を見つめ
、
﹁
と・
・
・
トトプト?
.
ぷりんてぃ
ん?
.
トトプト
、
っ
ていうのが・
・
・
き、
きみの名前なの
?
﹂
.
小さな妖精は、
こくり
、
とうなずいた。
ようやく少し安心したの
かも知れない
、
その顔に
、
にこっ
とした笑顔が浮かんだ
。
﹁
うん・
・
・
うん、
そう
。
こんにちは。
ぼく・
・
・
ぼく、
トトプト。
トトプトが名前
。
それでね
・
・
・
あの、
はじめまして
。
ぼく、
愛の妖精です
。
愛と幸せの妖精ぷりんて
ぃ
ん﹂
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
とまっ
て
﹂
.
美也子は片方の手をかざし
、
反対の手の指先を額に当てた
。
.
少しだけ、
頭の中をゆ
っ
くりと整理した。
.
トトプト・
・
・
トトプトが名前
。
それで、
この子は愛の妖精
・
・
・
妖精っ
て・
・
・
やっ
ぱりあの妖精よね
・
・
・
うん、
そうよね。
愛と
・
・
・
愛と幸せの妖精ぷりんて
ぃ
ん・
・
・
.
よし、
と美也子は心の中でつぶやいた
。
うん
、
よし・
・
・
.
美也子は静かに息をつき
、
もう少しだけ気持ちを落ち着けた
。
.
どきどき、
どきどき、
と心臓が高鳴
っ
ている。
.
妖精・
・
・
.
愛の妖精、
愛と幸せの妖精
、
という言葉が頭の中に繰り返し響き
渡る
。
.
どきどき、
どきどき、
とする
。
.
トトプトはもうすっ
かり安心した様子で
、
にこにこ
、
にこにこと笑
っ
ている。
ぷにぷに、
つやつや
、
のお顔で。
.
わっ
、
かわいい・
・
・
あっ
・
・
・
.
美也子は、
こほん、
と咳払いをした
。
.
あっ
、
落ち着かなきゃ
・
・
・
.
両方の手の指先を机の端についた
。
.
その愛の妖精さんが・
・
・
妖精さんがいっ
たい
・
・
・
.
すっ
と、
ちょ
っ
とだけ身を乗り出し
、
トトプトを見つめた
。
﹁
それで・
・
・
あの・
・
・
その愛の妖精さんが
・
・
・
妖精さんが、
私になにかご用
?
﹂
﹁
あのね﹂
.
美也子がたずねると、
トトプトはふいにまじ
めな顔つきにな
っ
た。
﹁
う、
うん﹂
.
トトプトは、
ぐっ
と息を飲み込み
、
小さなお手
々
をぎゅ
っ
と内側に丸め
、
﹁
あのね、
いま、
世界は危機にひんしている
の
﹂
.
・
・
・
.
・
・
・
・
・
.
?
?
?
﹁
はっ
?
﹂
.
美也子はぼうぜんとトトプトを見つめた
。
﹁
えっ
?
﹂
﹁
あのね、
世界は・
・
・
﹂
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
とまっ
て
!
﹂
.
美也子はふたたびトトプトを手で制し
、
反対の手の指先を額に当
てた
。
.
ふたたび頭が混乱していた
。
あまりに意外な
、
予想もしていなかっ
た答えに、
頭がふたたび
、
ぐるぐる、
ぐるぐると混乱する
。
.
はっ
?
.
世界?
.
世界が
・
・
・
危機にひんしている
?
.
えっ
?
.
世界?
.
世界っ
て・
・
・
えっ
?
.
なに?
.
世界っ
て?
.
えっ
?
.
えっ
?
﹁
あのね、
世界は・
・
・
﹂
﹁
ちょ
、
ちょ
っ
と﹂
.
美也子は、
ごくん、
とつばを飲み込んだ
。
﹁
世界っ
て・
・
・
あの、
世界
っ
て、
あの・
・
・
﹂
﹁
世界はね、
いま危機にひんしてるの
﹂
﹁
あ、
そ、
そうね﹂
.
美也子は笑っ
た。
﹁
はは、
そうよね、
いろいろと
、
いろいろと大変らしいものね
。
はは
﹂
﹁
もう時間がないの﹂
﹁
は、
はは﹂
﹁
まじめに聞いて!
﹂
﹁
は、
はいっ
﹂
.
美也子はしゃ
きん、
と背筋を伸ばした
。
.
トトプトはそれまでとは打
っ
て変わっ
た、
き
っ
とした眼差し︵
とい
っ
ても、
つぶらな小さなお目
々
を一生懸命、
き
っ
としただけ︶
で、
美也子を見つめた
。
.
美也子は、
ごくん、
とつばを飲み込んだ
。
.
トトプトは話をはじめた
。
.
・
・
・
・
・
・
.
トトプトの話によると
、
この世界にはこことは別の
、
ぷりんてぃ
んたちの世界
、
ぷりんて
ぃ
んたちの国がたくさんあ
っ
て、
そのうちの一つが
、
トトプトのふるさと
、
まじかるランド
、
だということだっ
た。
︵
ちなみに、
ぷりんてぃ
んたちの世界は、
この世界をそ
っ
と包み込むような形で
、
空のかなたに存在しているら
しい
。
でも、
人間はそのことに気づいていな
いだけ
、
とのこと。
︶
.
ぷりんてぃ
んは世界のはじまりの頃から
、
この世界にいて
、
人々
の心と心がそ
っ
とふれ合
っ
たとき・
・
・
.
人々
と動物、
動物と動物たち
、
植物と人々
のふれ合い
、
木々
のはざま
、
花々
の中、
そうしたものの中から生ま
れてくる愛のきらめき
・
・
・
.
そのきらめきの中から生まれてくるもの
、
それが
、
ぷりんてぃ
ん、
なのだという
。
.
心のきらめきそのもの
、
愛のきらめきそのもの
、
それが、
ぷりんて
ぃ
ん、
なのだという。
.
だから、
ぷりんてぃ
んは愛の妖精だし
、
愛と幸せを人
々
のもとへと運んでくることので
きる妖精
。
.
ふだんは目には見えないけれど
、
この世界に様
々
なきらめきが満ちているように
、
ぷりんて
ぃ
ん、
はこの世界のいろいろな場所にい
っ
ぱい満ちていて、
.
人々
を、
動物たちを、
植物を
、
この世界にある
、
ありとあらゆるものをいつも
、
そっ
と見守
っ
ている、
とのこと。
.
愛のきらめきが、
.
ぷりんてぃ
ん。
.
人々
の心の数だけ、
愛の数だけ
、
ぷりんてぃ
んはこの世界に存在している
。
ずぅ
っ
と、
ず
ぅ
っ
と、
むかしから、
ず
ぅ
ぅ
ぅ
っ
と。
.
ずぅ
ぅ
ぅ
っ
とむかしから
、
いままで、
ずぅ
ぅ
ぅ
っ
と。
﹁
でも・
・
・
﹂
とトトプトは目を伏せて
、
言っ
た。
.
美也子はその姿に知らず
、
きゅ
ん、
と胸が締め付けられるような
気がした
。
.
トトプトは本当にしょ
んぼりとしている。
.
美也子は、
ぎゅ
っ
と手をにぎり
、
ぐっ
と息を飲み込んでいた
。
.
でも、
この何十年かのあいだに
、
急速にこの世界から
、
心のきらめきが
、
愛のきらめきが失われてい
っ
ているのだという
。
.
虚無とカオス︵
混沌︶
が急速に人
々
の心の中に広が
っ
ている。
.
この世界に満ちている様
々
なきらめきの中から生まれてくるのが
、
ぷりんて
ぃ
ん。
.
だから、
ぷりんてぃ
ん
、
もどんどんと数が減
っ
ていて、
このままだと世界から
、
ぷりんて
ぃ
んがいなくなっ
てしまうかも知れない
。
.
もし本当にぷりんてぃ
んがすべていなくなっ
てしまっ
たなら、
世界から
、
人々
の心の中から
、
ありとあらゆるものの中から
、
きらめきが失われて
、
人々
の心の中は永遠に闇に閉
ざされてしまう
。
.
そこに残るのは、
.
虚無とカオス︵
混沌︶
.
ねたみ、
憎しみ、
怒り
、
そのほかあらゆる闇が心をおおい
、
人々
はお互いに思いや
っ
たり
、
慈しんだり、
愛し合
っ
たりする気持ちを忘れ
、
すべて自分の欲望のままに
、
お互いを傷つけあうようにな
っ
てしまう
。
.
本当は心の中に誰もが持
っ
ている愛の宝石が闇につつまれて
。
.
本当は誰もが、
すてきなきらめきをも
っ
たエンジ
ェ
ルなのに。
.
その先にあるのは、
.
破滅。
.
滅亡。
.
世界はわずかなあいだに滅亡への坂道を転
がり落ちてい
っ
てしまう
。
.
特にこの数年は、
ますますものすごい勢い
で
、
世界から、
きらめきが失われてい
っ
ている
。
.
まるで見えない強い力が働いているかのよ
うに
。
.
だから・
・
・
﹁
だからね、
だからぼくたち
、
ぷりんてぃ
んの長老はね
、
まじかるランドの中からぼくた
ち子供のぷりんて
ぃ
んを選んで
、
地上へと派遣したの
。
.
ぷりんてぃ
んの中でも
、
子供のぷりんてぃ
んは特に大きなきらめ
きを持
っ
ているから。
それでね
・
・
・
﹂
.
トトプトは美也子を見上げた
。
.
彼女は思わず、
ドキッ
、
とした。
.
どきどき、
どきどき、
とする
。
.
やだ、
私っ
たら・
・
・
.
トトプトは小さなつぶらなお目
々
で美也子を見つめる
。
﹁
それでね・
・
・
それで
、
長老は言っ
たの。
.
もうあまり時間は残されていない
。
でも、
まだ間にあう
。
.
だから、
人々
の中から特に大きなきらめき
を持
っ
た・
・
・
愛と幸せの宝石を持
っ
た人を見つけて
・
・
・
本当の心のエンジ
ェ
ルを見つけて
、
ぼくたちの力を分け与えてあげて
っ
て。
.
そのエンジェ
ルの子たちを助けて
、
闇に曇っ
た人々
の心を・
・
・
人
々
のよごれた心をきれいにしてあげて
っ
て。
.
誰よりも強いきらめきを持
っ
たエンジェ
ルの子たちと協力して
、
少しずつ
、
少しずつ、
この世界にきらめきを
取り戻してきて
っ
て。
まだ間にあうから
。
.
あのね、
だからね・
・
・
だから、
ぼく、
ここに来たの
﹂
.
美也子は、
ぽかん、
としてトトプトを見つ
めた
。
.
えっ
、
ちょ
っ
とまっ
て
、
それっ
て・
・
・
.
ごくっ
とつばを飲み込む
。
﹁
あ、
あの、
それっ
て・
・
・
私が・
・
・
﹂
﹁
うん﹂
.
トトプトは笑っ
た。
﹁
うん、
そうだよ﹂
﹁
ちょ
、
ちょ
、
ちょ
、
ち
ょ
っ
とまっ
て﹂
.
美也子は椅子の背もたれに体をあずけ
、
ずず
っ
と少しだけ後ずさっ
た。
﹁
ちょ
っ
とまっ
て、
私、
そんなんじ
ゃ
・
・
・
﹂
﹁
ううん﹂
.
トトプトは、
ふるふる
、
ふるふる、
と顔を振
っ
た。
﹁
そんなことない
。
ぼくには分かるんだ
。
.
ぼくには感じる。
君は
・
・
・
君は、
他の誰よりも大きなきらめき
を心に秘めている
。
愛と幸せの宝石を持
っ
ている
。
自分ではまだ気づいていないかも知れ
ないけれど
﹂
﹁
あ、
あの・
・
・
﹂
﹁
ねっ
﹂
.
トトプトはふわっ
と机の上から浮かび上が
っ
た。
.
ゆっ
くりと、
でも、
す
︱
︱
︱
︱
︱
っ
と美也子の前まで飛んでくる
。
﹁
ねっ
﹂
﹁
えっ
?
﹂
.
ふいに美也子とトトプトのあいだの空中に
、
キラキラ
、
キラキラとしたステ
ィ
ッ
クが浮かび上が
っ
た。
.
映像?
.
・
・
・
ではなかっ
た。
.
それは確かにそこに、
空中に浮かんでいる
。
それは先に二つのハ
︱
トが水平に交わ
っ
ていて
・
・
・
.
キラキラ、
キラキラと輝いている
。
﹁
ねっ
、
これを受け取っ
て﹂
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
﹁
だからさぁ
、
ど︱
も、
そこがだまされた気が
するのよね
︱
﹂
﹁
えっ
?
.
ど、
どうして
?
﹂
﹁
だっ
てさぁ
﹂
.
美也子は空き地の中をま
っ
すぐに続く一本道を歩きながら
、
両手で持
っ
た通学カバンをち
ょ
っ
とだけ、
ちょ
こん
、
と振り上げた。
.
中に入っ
た筆箱が、
ガチ
ャ
ン、
と小さな音をたてる
。
﹁
だっ
てさぁ
、
あのときトトプト、
﹃
ねっ
、
これを受け取っ
て﹄
っ
ていうだけで、
あのステ
ィ
ッ
クが何なのか
っ
てこと、
ぜんぜん説明しなか
っ
たじゃ
ない
﹂
.
美也子はちらっ
とトトプトへと目を向けた
。
.
トトプトは彼女の顔のすぐわきを
、
ふわふわ
、
ふわふわ、
と飛んでいる
。
その周りにはたくさんの蝶
々
。
﹁
で、
で、
でも・
・
・
﹂
.
トトプトは、
とっ
ても困り顔
。
.
美也子はくすっ
と笑っ
た。
﹁
ま、
いいけどね﹂
.
・
・
・
.
美也子は空中に浮かんだステ
ィ
ッ
クを本当に自然に
、
知らず知らずのうちに手にと
っ
ていた
。
.
ずっ
とむかしから自分のものであ
っ
たかのように
、
ずっ
とむかしから知
っ
ていたものであ
っ
たかのように、
本当に自然に
、
気がついたときには
、
そっ
と両方の手にと
っ
ていた。
.
その瞬間、
.
あっ
・
・
・
.
ふいに美也子の体はキラキラとした明るい
光につつまれていた
。
体の奥の奥
、
ずっ
と心の奥底からあたたかな
ものが込み上げてくる
。
.
わっ
、
.
なに・
・
・
.
美也子はすっ
と目を閉じた
。
これまで感じたことのない
、
きらきら
、
きらきらとした光を感じる
。
.
自分の中にねむっ
ていた光
︱
︱
.
きらめき、
.
愛と幸せの宝石。
.
光はすぐに消えた。
すべての光が美也子の
体の中に吸い込まれて
いくかのように
。
.
そっ
と目を開く。
.
手にはスティ
ッ
クが握られている
。
.
そのスティ
ッ
ク︱
︱
.
トトプトの言葉を借りるなら
、
.
愛と幸せの﹃
まじかるステ
ィ
ッ
ク﹄
には、
.
様々
な不思議な力が宿
っ
ていた。
︵
そのすべての力を彼女はまだ知らない
。
トトプトもすべては分か
らない
、
と言っ
ていた。
ステ
ィ
ッ
クのすべてを知
っ
ているのは、
ぷりんて
ぃ
んの世界をつかさどる女王さま
?
だけ、
らしい
。
︶
.
特に大きな、
重要な力は
、
トトプトから教わ
っ
たある﹃
ことだま﹄
を唱えながらステ
ィ
ッ
クを振ると
、
スティ
ッ
クに
﹃
あること﹄
が起こり
、
そこからあたたかな
、
まぶしい光がはなたれるというもの
。
.
誰にでも出来ることではない
、
という。
ステ
ィ
ッ
クに選ばれた特別なエンジ
ェ
ルだけができること
。
.
はなたれた光は美也子をそ
っ
とつつみ込み、
彼女に不思議な力を与
える
。
.
愛のきらめきの力、
.
ぷりんてぃ
んの力、
.
なにより、
彼女自身が本来も
っ
ている力、
.
愛と幸せの宝石の輝き
。
.
スティ
ッ
クの光は彼女の姿をも変えた
。
.
はじめての晩、
トトプトに言われるままに
ステ
ィ
ッ
クを振っ
た後、
美也子はその自らの変
化に驚き
、
とまどいを感じずにはいられなか
っ
た。
.
ぼうぜんと壁の鏡に映る自らの姿を見つめ
た
。
.
学校ではあまり目立たない静かな自分
。
.
でも、
.
・
・
・
そこには別の自分がいた
。
.
これが・
・
・
私・
・
・
.
とまどい︱
︱
.
それでも、
体の奥底から湧き出してくる
、
無限の光の感覚はあた
たかか
っ
た。
どこかなつかしいものを感じた
。
.
これが、
.
・
・
・
私?
.
髪の色も金色に変わり
、
服もピンクを基調とした独特のコスチ
ュ
︱
ムへと変わっ
ていた。
.
左右それぞれの胸当ての形はハ
︱
ト。
.
そのハ︱
トとハ︱
トが胸の中ほどで接し
、
やわらかな形をつく
っ
ている
。
.
それは、
﹃
ぷりんてぃ
ん﹄
を象徴する形だと
、
トトプトは言っ
た。
︵
でも、
正直に言うと、
この胸当てだけは
、
いまだに美也子は
、
う︱
ん
、
ちょ
っ
とどうかな︱
、
と思っ
ている。
︶
.
美也子は鏡を見つめていた
。
.
はっ
として後ろを振り返ると
、
そこにはトトプトがふわふわと浮
かんでいた
。
.
トトプトは、
にっ
こりと笑い
、
﹁
さっ
、
美也子ちゃ
ん。
行くよ
!
﹂
.
その晩から、
美也子の
﹃
まじかるエンジェ
ル
﹄
としての活躍がはじま
っ
た。
﹁
わっ
﹂
.
まじかるエンジェ
ルに姿を変えているあい
だ
、
美也子はトトプトと同じように宙に浮き
、
空をかけることができ
た
。
﹁
わっ
、
すごい、
気持ちいい
︱
﹂
.
眼下の町並みが小さく
、
小さく見える。
.
様々
な場所で、
﹃
心のよごれたエンジ
ェ
ルさん
﹄
を見つけ、
心をきれいにした
。
.
日本中、
どこにでも、
トトプトの不思議な力
で
、
一瞬のうちに、
テレポ
︱
ト︵
瞬間移動︶
することができた
。
.
この突然あらわれた不思議な少女の活躍は
、
翌日からすぐに新聞の
紙面をかざり
、
テレビのニ
ュ
︱
スの話題を独占した
。
.
髪や服装は変わっ
ていても
、
顔は素顔のまま
。
.
でも、
トトプトがいうには
、
ぷりんてぃ
んの魔法の力によ
っ
て、
感覚がずらされ
、
たとえ美也子をよく知
っ
ている友達でも
、
まじかるエンジ
ェ
ルと美也子が同一人物だとは
、
ぜっ
たいに分からない、
とのことだ
っ
た。
.
美也子の活躍は、
まじかるエンジ
ェ
ルの活躍は
、
毎晩のように続いた
。
.
でも、
自宅の自室に戻り
、
﹃
変身﹄
を解き、
もとの姿に戻
っ
た後、
美也子は決ま
っ
て、
ずど
︱
ん、
とした自己嫌悪に陥
っ
た。
.
う︱
︱
︱
︱
︱
︱
ぅ
ぅ
。
.
頭に浮かぶのは、
まじかるエンジ
ェ
ルに寄せられる人
々
の声援。
﹁
まじかるエンジェ
ルぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
!
﹂
﹁
がんばれ︱
、
俺たちがついてるぞ
︱
﹂
﹁
いいぞ︱
﹂
﹁
いけ︱
﹂
.
そして、
歓声!
﹁
おおお、
おおおぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
ぉ
!
﹂
.
う︱
︱
︱
︱
︱
︱
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
。
.
美也子は自室の壁際のベ
ッ
ドに腰を下ろし、
顔をま
っ
赤にした。
.
曲げた両腕を、
きゅ
っ
とすぼめる。
.
う︱
︱
︱
︱
︱
、
なんで毎回
、
私、
変身しているあいだは
、
あんなこと出来るんだろう
・
・
・
。
うぅ
︱
︱
、
は、
はずかしい
ぃ
ぃ
ぃ
ぃ
ぃ
!
!
!
!
.
おまけに二週間前からは
、
彼女と同じように
、
それぞれ、
別のぷりんて
ぃ
んから力を授けられた二人の少女と
出会い
、
いっ
しょ
に行動している
。
︵
実際には、
トトプトが
、
ぷりんてぃ
ん同士で連絡を取り合い
、
三人を引き合わせた
、
のが本当
。
︶
.
いつのまにか、
自分がリ
︱
ダ︱
。
.
彼女一人の﹃
まじかるエンジ
ェ
ル﹄
は、
三人の
﹃
まじかるエンジェ
ルズ﹄
になっ
た。
.
そんな生活がもう三週間
。
.
・
・
・
﹁
はぁ
﹂
と美也子はため息をついた
。
.
まじかるエンジェ
ルにな
っ
ているときの自分は自分ではない
、
と思う
。
.
自分ではない、
別の自分
。
.
美也子は顔をあげ、
両手で持
っ
た通学カバンをち
ょ
っ
とだけ、
ちょ
こん、
と体の前で振り上げた
。
.
中の筆箱が、
ガチャ
ン
、
と音をたてる。
.
くすっ
と笑っ
た。
.
左手の空き地へと目を向けた
。
.
空き地の中、
青々
としげ
っ
た草の上、
トトプトがたくさんの
、
色とりどりの蝶
々
といっ
し
ょ
に、
楽しげに飛び回
っ
ている。
.
右に、
左に、
.
上に、
下に、
くるくる
、
くるくる、
と。
.
ま、
仕方ないか・
・
・
.
にこにこ、
きゃ
っ
きゃ
っ
、
と笑っ
ているトトプトを見ていると
、
そう思う
。
.
人々
にきらめきをふりまく
、
.
心をきれいにする、
.
愛と、
.
幸せの、
.
・
・
・
まじかるエンジ
ェ
ルズ。
.
でも、
.
それでも、
美也子は青く青く晴れ渡
っ
た空を見上げ
、
﹁
はぁ
﹂
とため息をつき
、
思わず、
こうつぶやかずにはい
られなか
っ
た。
﹁
うぅ
ぅ
ぅ
、
.
私の﹃
ふつうの﹄
.
女学生ライフぅ
ぅ
ぅ
ぅ
ぅ
﹂